お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜
Side朔夜

僕が凪波の指輪を抜いて捨てる。
からんっという小さな音が、妙に響く。
その時の凪波の表情を、僕は一生忘れることはできないだろう。

ねえ、凪波。
僕の指輪はあっさり置いていったのに。
他の男が君に押し付けたような指輪が無くなるのはそんなに嫌なの?
どうして、そんな泣きそうな顔をするの?

凪波は、力が抜けたようにしゃがんでしまう。
こんな凪波は、1度だけ見たことがある。
声優のマネージャーとして働いていた時に、俺への恋人に関する誹謗中傷を対応していた時。

「大丈夫?」
そう言って手を差し伸べようとした時。

「ふざけんなよ!!!!」
海原朝陽が僕に殴りかかろうとしている。

そう、そっちがその気なら……。
ちらりと凪波にもう1度視線をやる。

やめて。
そう言いたげな唇。

ごめんね凪波。
今ここで引いてしまったら、君がもう2度と手に入らない気がするんだ。
だから、一発この男を黙らせてやりたい。



そんな時だった。

「あの〜……」
あまりに場の空気にそぐわない声。
振り返ると、駅員が立っていた。

「すみません〜もう、ホーム閉めちゃいますんで〜」

時計を見ると、確かに終電が終わっていた。
予定外の乱入者に空気をかき乱され、場の空気が微妙なものに変わった。

僕は、さっと笑顔に切り替えて
「すみません、すぐ出ますね」
と答える。
「お願いします〜」
と駅員は、ホームの見回りを再開した。

「くそっ!!!」
海原朝陽が大声をあげ、地面を1回強く踏む。
駅員が「何事か」ともう1度こちらを見たが、僕が「大丈夫です」と伝えるジェスチャーをすると、一瞬首をかしげたが足早に歩き出した。

海原朝陽は、大きく深呼吸をすると
「一路さん、もう少し、顔を貸してもらおうか」

そう言うと、海原朝陽はホームにいつの間にかホームに転がっていた凪波の荷物を拾い上げる。
「ついてこい」

その命令口調に、僕も苛立ちはしたが
「望むところだ」


何を言われても。
僕が凪波を連れて東京に帰るというシナリオは決して曲げない。
その事実を、この男に叩きつけなくては。


凪波の方を見る。
ちょうど、何かを拾い上げていて、大事に手の中にしまっていた。

……それは、今僕が君から排除したはずのもの。
ねえ凪波。
そんなに、その指輪を見つけて安心したの?
どうして、そんな顔をするの?
僕の指輪を外した薬指に、そんな指輪を嬉しそうにはめないで。



next memory....
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