スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 詰め寄ってくる蕪木と夏田の圧が強い。これが業務時間中だったら音声に雑談が入ってしまうのでちゃんと叱るところだが、今はもう業務時間外だ。

 けれどそれなら、陽芽子だって大きな声で反論することができる。

「だから、ほんとに付き合ってないんだってばーっ!!」

 陽芽子の慌てぶりに興味津々だった上司と部下四人に勘違いの経緯を説明すると、全員が一瞬でつまらなさそうな顔をした。特に陽芽子と啓五が付き合っていると思っていた春岡の冷却速度は相当なものだったが、本当に交際の事実などないのだ。

 実際には一度肌を合わせており、さらに現在告白の返事を保留中だが、それは言わなくても良いだろう。

「それで? うちのスノーホワイトは毒りんごをどうするつもりです?」

 怒りと呆れと疲労が一周回って楽しくなってきたのか、ワークチェアを鳴らした蕪木がニヤリと笑った。

 お客様相談室の主任として陽芽子の片腕を担う二つ年下の男性社員は、陽芽子の決定に全面的に従うと暗に匂わる。それはきっと夏田も御形も鈴本も同じで、主婦業が忙しく既に退社した箱井も、今日は出勤日ではない平子と芹沢も同じような反応をするだろう。

 自分でも言うのも変だが、陽芽子は七人の可愛い部下たちに慕われている。だから陽芽子も自分の部下たちの信頼に応えたいと思うのだ。

「それはもちろん、やられたらやり返すわよ」

 陽芽子がにこりと笑み返すと、見ていた御形がヒュウと口笛を吹いた。

 そう。部下たちにからかわれている場合じゃない。陽芽子は可愛げのある女の子じゃない。社内の噂も、本当はあながち間違ってはいない。

 白木陽芽子は毒りんごで死なない白雪姫で、お客様相談室の魔女なのだから。

 毎日同じ時間に届けられる毒りんごなど、甘いスイーツにして食べてしまえばいいだけだ。

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