スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 啓五の瞳は、何もかもを見通しているようだ。陽芽子の甘えたい願望や、強がっているだけで本当は弱い心も、全部見透かしているみたいに思える。それだけではなく、未来を真っ直ぐに見据える意志の強さも感じられる。

 整った顔立ちをしているから黙っているだけでもモテそうだけれど、さらにこの眼で見つめられたら、女子はみんなすぐに恋に落ちてしまう気がする。

 なんて呑気に考えていると、啓五が突然ベッドの中で身体を起こした。

「陽芽子……もう一回、いい?」
「は……え? ……なに?」

 そのまま身体を拘束するように、再度シーツの上へ腕を押し付けられる。ホテルベッドとしては標準よりも柔らかいマットレスに、身体が深く沈み込む。唐突な行動に驚いて瞠目すると、啓五が妖艶な笑顔を浮かべた。

「一回じゃ、足りなかったから」

 近付いてきた唇に耳元で囁かれ、快感を放出したはずの身体に再び熱が灯る。長い指がふわふわと胸を撫でるだけで、また身体が勝手に反応を始めてしまう。

「……ん」
「うん……気持ちいいな」

 啓五の呟きが、鼓膜を揺らして脳に響く。その言葉が彼の本心のように聞こえて、陽芽子も『嫌だ』とは言えなくなってしまう。

「……可愛い」

 啓五はもう覚えてしまったのだろう。名前を呼ばれて、可愛いと言われたら、この身体が反応してしまうことを。意思とは関係なく快感を追いかけてしまうことを。

 だから本当はそう思っていなくても、彼は同じ言葉を口にする。陽芽子をその気にさせて、気が済むまで翻弄することを楽しむために。

 でも、それでも構わない。
 今夜だけは……その戯れ言を受け入れて快楽に身を委ねることを、許されている気がしたから。

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