スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

「クレーム電話は毎日二回、決まって11時と17時に掛かってきます。ちょうど今、本日の二回目の応対をしているところです」
「クレーム電話って、内容は? 相手から何か要求されてるのか?」
「いいえ、特にはありません」
「…………は?」

 きっぱりと答えると、啓五が間抜けな声を出した。

 だが無いものは無いのだから、そう説明するしかない。

「それはクレーム電話と言うのか?」
「判断はなんとも。ですが要求があるとすれば――社長に代われ、と」
「え……そんなことっ……!」

 陽芽子がちらりと視線を向けながら告げると、鳴海が驚きの声を上げた。けれどハッとしたように身体を強張らせると、そのまま黙り込んでしまう。

 鳴海は焦っただろう。何故なら彼女の兄はそんな要求などしていない。正確には『上司に代われ』と言ってきただけだ。

 この場合オペレーターたちの直属の上司は陽芽子なので、その要求を飲むのならば陽芽子が電話に出ればいい。

 もちろん電話に出るのは簡単なことだ。実際、今回の件に限らず、激昂した顧客に『下っ端じゃなくて上司に代われ』『責任者と話をさせろ』と要求される場合も多い。普段ならそれで陽芽子が電話口に代わることで大抵のことは収まるし、女じゃダメだと怒鳴られた場合は春岡に代われば完結する。

 けれど今回は事情が事情なので、陽芽子が電話口に代わったとて収まらないだろう。むしろ相手の攻撃が激化する可能性の方が高いと思われる。

「それで社長の代わりに俺に対応して欲しい、と?」

 考え込んでいた啓五が顔を上げて確認してきたので、えぇ、まぁ、と言葉を濁す。
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