スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

毒を食らわば芯まで


 啓五は翌週火曜日の午後に、コールセンターへ訪れる時間を設けてくれた。しかも後の予定は空けてあるので、終業までの残り時間を全て陽芽子にくれると言う。

 啓五と鳴海は設定した時間丁度にやってきたが、事前の約束通り鳴海は何も聞かされていないらしい。陽芽子の目にも、彼女がわかりやすく動揺しているのが見てとれた。

「あの、副社長……?」

 不安そうに上目遣いで上司の顔色を確認する鳴海だが、あいにく啓五も状況を理解していない。当然、彼にもこの状況を説明できるはずがない。

「お手数をおかけいたしまして申し訳ございません。どうぞこちらへ」

 困惑する二人を奥まで導く間も、陽芽子の右耳にはオペレーターである夏田と鳴海・兄の会話がモニタリングされている。例によって要求のない感想を捲し立てるその声は、聞いているだけで耳と胃が痛くなるほどの大音量だ。

 普段はハキハキと応対する元気な夏田でさえ、相手の音声を下げるボタンを連打し、心の扉をシャットダウンして相槌を打つだけのカラクリ人形になっている。他の者もそうだが、皆ストレスを限界ギリギリまで背負いこんでいる。

 お客様相談室のブースが並ぶエリアに啓五と鳴海を案内した陽芽子は、一見いつもと変わらない部署内で静かに今日の本題を切り出した。

「実はここ最近、激昂したお客様からのクレーム電話が毎日のように入っておりまして」

 その言葉に、鳴海の身体がびくっと跳ねた。啓五も自分の秘書の挙動に気付いてそちらをちらりと一瞥する。だが特に声を掛けることはなかったので、そのまま説明を続行させてもらう。
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