スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 春岡の説明は、啓五にとってはにわかに信じがたい内容だった。だが応対記録と鳴海の個人情報と自社の会員サイトの登録情報を並べて提示されれば否定は出来ない。信じられない話を、事実として認めざる得ない。

 そして春岡はこの状況の原因が他でもない自分の存在だと言う。そんな馬鹿なと思ったが、咄嗟に反論の言葉は出なかった。

「あれは、そういう意味だったのか……」

 叔父であり社長である怜四との会話を思い出す。

 はぐらかされてタイミングを逃したために正確な内容を聞きそびれていたが、あのとき怜四は『啓五が狙われている』と言った。偽りの噂を『わざとに流したもの』『やることが小賢しい』と評した。

 その言葉の意味に、ここにきてようやく気が付く。鳴海は啓五に近付く他の女性たちと同様『一ノ宮』の家柄を欲しているのだろう。

 しかし普段の鳴海は、仕事は完璧にこなすが、必要以上にプライベートには干渉して来ない。啓五に対して分かりやすい欲望も感じない。

 だから気が付けなかった。

 鳴海が長い時間をかけて啓五を懐柔し、ゆっくりと意識を向けさせることで、着実に目的を達成しようしていたことも。啓五が陽芽子に向ける特別な感情を目聡く察知し、その繋がりを断つために陽芽子を精神的に疲弊させようとしていたことも。そのために身内を使っていやがらせ行為をしていたことも。

 もっと早く気付けなかったのか。原因が自分の存在なら、何かできることがあったのではないか。

 先に立たない後悔が胸の中に渦を巻く。
 我ながら不甲斐ない。想像の範疇を超えていたとは言え、自分の直属の部下でさえまともに管理出来ないとは、なんて情けない話だ。
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