スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「啓五くん……あのね」
その指先が身体に触れる前に、陽芽子は啓五に伝えておきたい言葉があった。今のうちに、確認しておきたいこと……啓五との共通認識として、ちゃんと共有しておきたいことがあった。
「一つだけ、約束してほしいことがあって」
「……なに?」
今にも噛み付かんばかりの勢いだったが、一応待つ素振りは見せてくれる。その瞳に負けないように、つらい気持ちにならないように、出来るだけ明るい声になるよう努めて言葉を紡ぐ。
「啓五くんが『結婚する』って決まったら、そのときはちゃんと教えてほしいの。できれば、早めに」
「………は?」
陽芽子の要望を聞いた啓五が、気が抜けたような声を零した。困惑する黒い瞳と見つめ合うと、
「どういう意味?」
と不機嫌になってしまう。
けれどこれは啓五と付き合うのなら、ちゃんと確認しておかなければいけないことだ。
陽芽子はきっと、啓五のことをどんどん好きになってしまう。これから、今以上に、啓五に惹かれていくと思う。それはもう仕方がないと思っている。
けれどいつか終わりの日が来るのなら、自分を戒めて、自分に言い聞かせておく必要がある。
「啓五くんには、いつかちゃんとした結婚相手が見つかるでしょ?」
啓五は一ノ宮の御曹司だ。本家の長男の血筋ではないかもしれないが、いずれは一族にとっても会社にとっても有益な、どこかの令嬢と結婚することになるだろう。
啓五本人は『恋愛も結婚も自由だ』と言っていたが、いくらなんでもその相手が自分じゃないことは理解している。そのぐらいは、弁えている。
「私、啓五くんとお嫁さんになる人の邪魔にはなりたくないの。でも結婚相手が決まるまでの間は、啓五くんの傍にいたい。……だから、それまでは恋人として傍にいても恥ずかしくないように、がんばるから」
本当はずっと傍にいたいし、傍にいて欲しいと思う。他愛のない話をして、美味しいお酒を一緒に楽しんで、その瞳と見つめ合って、時々甘やかされて。そうやって過ごす日々がずっと続くのならば、これ以上の幸せはないと思う。