スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
陽芽子はあの日と同じく否定しようとしたが、それよりも啓五が肯定する方が早かった。あっさりと認めた後は、さも当然のような顔をしてダイキリの白い色を喉の奥に流し込んでいる。
「言い切ったよ……」
「……恥ずかしい」
呆れる環と赤面する陽芽子の独り言は聞き流されたので、陽芽子も婚姻届を預かることは諦めた。
元より一ノ宮の御曹司である啓五が、自分の意志だけで簡単に結婚まで漕ぎ着けられるとは思っていない。ここから先は、なるようにしかならないのだ。
苦笑しつつグラスの中のスプモーニを空にすると、環がすぐに次のカクテルを用意してくれた。
「たまちゃん、これなに?」
「ハネムーンっていうカクテル。ちょっと度数はあるけど、りんごのブランデー使ってるから飲みやすいと思うよ」
環が出してくれたカクテルグラスは、柑橘系の鮮やかな色とさわやかな香りで満ちている。オレンジ色の底に沈んでいるのは、可愛らしく顔を赤らめたマラスキーノチェリーだ。
「俺の奢り」
「えぇ……気が早いよ……?」
「結婚祝いじゃなくて、婚約祝いだって」
にこにこと環が嬉しそうな顔をするので、出されたカクテルをひと口飲んでみる。コクリと喉を通り抜けたアルコールは、熟成されたりんご酒に、レモンやオレンジの酸味が効いていて飲みやすい。
なるほど。甘酸っぱい恋と奥深さのある愛を詰め込んだ『蜜月』の名を冠するカクテルは、新しい門出を迎えるカップルにぴったりだ。
「美味しい」
「お、よかった」
環なりに陽芽子と啓五のことを祝福してくれるのかと思うと、少しだけ恥ずかしくて、照れくさい。
思えば彼のおかげで啓五との距離が近付いたのだ。そのうちに環にもちゃんとした形でお礼をしたいと思う。
「勝負酒には丁度いいな」
ふと隣から聞こえた呟きに、つられるように顔を上げる。バーカウンターに頬杖をついた啓五は、陽芽子の顔を覗き込んで困ったように笑っていた。
「まだいるだろ? 俺と陽芽子が結婚するために説得しなきゃいけない大物が、七人も」