スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

「俺はそんなことは一言も言ってないだろ。陽芽子は仕事は辞めない。本人が続けたいと言ってるから、俺も別に反対はしない」

 啓五の冷静な返しを聞き、全員の興奮がスッと冷えたのがわかった。どうやら啓五の言葉に安心して、納得してくれたようだ。

 この場を収めるためにちゃんと説明してくれたことはありがたかったが、

「っていうか副社長」
「室長のこと、名前で呼んでるんですね」
「なんかやらしい~」

 と、別のところで別の話題に火がついた。平子と箱井と芹沢の三人は、年齢は異なるが全員主婦という共通点を持つためか、いつもやけに息が合っている。

「ねえ、ちょっと!? なんでそうなるの!?」
「やーん、室長照れてます~?」
「そういうところ本当に可愛いですよね~」
「ね~」
「……もうやだ。……恥ずかしい」

 主婦三人に揶揄われ、今度は陽芽子がダメージを受けた。

 いずれ説明しなければいけないと思っていたが、職場への結婚報告と言うのはこんなにも羞恥プレイ全開なものなのだろうか。同期が結婚報告をしたときってこんな感じだったっけ? と記憶を遡っても、直近で結婚した同期社員もかなり前の話なのですぐには思い出せない。

「それより、全員俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 ひとりで恥じ入っていると、啓五が不思議そうに呟いた。

 だがその言葉には誰もすぐに反応出来ず、全員揃って『何?』と首を傾げてしまう。もちろんみんなにも根掘り葉掘り聞きたいことはあるはずだが、啓五が言っているのはそういう事ではなく。

「いや、鳴海のことだろ」
「ああー……鳴海秘書……」
「いましたね、そんな人」

 啓五の言葉に、蕪木と御形が興味もない様子でため息を零した。

 男性である二人は可愛らしい外見の鳴海が重い処罰を受けることを嫌がるかと思ったが、案外そんな事はなかった。むしろ鳴海を『関わりたくない女』と認識しているらしく、お客様相談室内ではこの二人が最も鳴海を毛嫌いしているような気配さえ感じた。 
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