スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 新商品が入った箱の前で顔を赤く染めている陽芽子を一旦解放し、鳴海に近付く。デスクに置かれた端末の指紋認証リーダーに人差し指を添えると、すぐに画面のロックが外れた。

 ありがとうございます、と礼を述べる鳴海を無視して、陽芽子が座っている応接ソファにさっさと戻る。陽芽子のすぐ隣に腰を下ろして身体を密着させると、身体がびくっと跳ねた。

「で? どれ持って帰るか、決めた?」

 陽芽子の腰に手を回し、至近距離でもう一度訊ねる。視線を逸らして恥ずかしそうに口籠る陽芽子の耳にキスしてしまいたいと思ったが、後で怒られそうなので止めておいた。

 これは鳴海に対する牽制だ。

 まずは第一段階。啓五の興味や関心のすべては陽芽子に向けられていて、鳴海はただのビジネスパートナーでしかない、という明確な意思表示。

「今日は晩飯どうする? 陽芽子の手料理?」
「いえ、私……料理は得意では……」
「そう? 普通に美味しいけどな」

 一人暮らしが長いからか、陽芽子は料理が上手だ。オムライスの卵を綺麗に巻けるので十分料理上手と言っていいと思うが、本人は食の英才教育を受けてきた一ノ宮の人間を前にすると、自分の料理の腕に自信がなくなるらしい。

 陽芽子は、啓五が作るものをなんでも美味しいと言って嬉しそうに食べてくれる。だから普段の食事に関しては本当にどっちが作ってもいいと思っているのだが、彼女にとって今の問題はそこではないのだろう。

「じゃあ俺が作るか。何食べたい?」
「ちょ、ちょっ……」

 陽芽子が焦った声を出す。けれど綺麗に無視して提案を続ける。

「なんでもいいよ。陽芽子の食べたいもの作るから教えて」

 他の人に聞かれたら『副社長に何させてるんだ』と言われてしまう……とでも思ったのだろう。実際少し離れた場所にいる鳴海の不機嫌そうな表情が目に入ったが、それは彼女を含め他人には関係のない話だ。
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