スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 案の定、昼休みの社員食堂は新しく就任した副社長の話題で持ちきりだった。一緒に昼休憩に入った夏田が

「室長。新しい副社長ってそんなにイケメンなんですか?」

 と聞いてきたので

「イケメンじゃない一ノ宮の人間なんて存在しないわよ」

 とだけ答えておく。

 我ながら適当な返答だと思ったが、その説明でもちゃんと通じたらしい。一ノ宮の人間がこぞって見目麗しい人々ばかりであると知っている夏田は『ですよねぇ』と苦笑いを浮かべた。

 食堂内できゃあきゃあと騒ぐ女性社員たちは、まだ新副社長の詳細な人物像を掴んでいないらしい。飛び交う噂話の大半は彼の外見からの想像か妄想ばかりだ。

 しかしその中に、一つだけ陽芽子が気になる噂話があった。

 ルーナ・グループにおける社長および副社長には、もれなく専属秘書が二人配属される。これは一般的な会社よりも経営陣の移り変わりが激しく、かつ膨大な仕事量をこなす必要があるためにサポート役が一人では不足だと判断されるためだ。その慣例にならい、新副社長に就任した啓五にも二人の秘書が配属された。

 一人目は吉本 大貴(よしもと ひろたか)。五十代前半のベテラン男性秘書で、落ち着いた雰囲気と寡黙な姿は、秘書より執事という表現が似合う。彼は前副社長の秘書を務めていた人物なので、そのまま引き継ぐ形となったのだろう。

 そして二人目、鳴海 優香(なるみ ゆか)。彼女は二十代半ばの若い女性秘書だが、数多くの資格を有し秘書課の中でも有能だともてはやされている。確かに鳴海は秘書としての技量に加えて可愛らしい外見をしているので、経営陣の秘書としては愛嬌があって華があると言えるが。

 昼休みを利用して銀行に行くと言う夏田と別れ、エレベーターを待ちながらぼんやりと考える。

(鳴海さんか……そういえば、辞令の確認してなかったな)
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