スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 啓五が生まれ持った眼は、黒目よりも白目の割合が高いことで相手に鋭利な印象を与えてしまう、いわゆる『三白眼』だ。

 実際はしっかりと見つめ合い、よく観察しないとわからないほど軽微なものだが、特徴的なこの目は吉凶に影響する。人相学では人間関係の構築に不利と言われていて、願掛けや験担ぎを重んじる商売人には疎まれる特徴だ。

 この瞳のせいで、啓五は幼少期から不遇だった。周囲の大人たちから『大企業のトップの座には相応しくない』と言われて育ってきた。一ノ宮には要らない存在だと暴言を吐かれたこともあった。

 生まれ持った身体的特徴だけで人生の全てが決まるなど、あまりにも馬鹿げている。そもそもその人相学というもただの統計でしかなく、個人の素質を測る絶対的な理由にはならない。ただの個性だ。何度そう説得しても、占いや験担ぎを重要視する大人たちの意見は覆らなかった。

 だったらその凝り固まった時代遅れの常識を、口先だけではなく行動で覆してやる。巨大企業である一ノ宮の頂点に立って、自分を見下した上の世代の連中を実力で見返してやる。そう心に決めたのは、まだ高校生になる前だった。

 先頃『副社長就任が決まった啓五の門出を祝いたい』と、ルーナ・グループの名誉会長である祖父に呼び出された。昔から啓五を可愛がってくれる祖父から、祝いの言葉と共に『その眼に負けるなよ』と喝を入れられたことには少しだけ驚いた。

 だがそれよりもっと驚いたのは、陽芽子の口から聞いた疎ましい特徴への褒め言葉だった。彼女は子猫のような甘い声と優しい表情で、啓五の目を『かっこいい』と呟いた。偏った一ノ宮の人間とそれに媚びへつらう人々の中で生きてきた啓五は、そんな言葉をかけられた事などただの一度もなかった。

 その瞬間、どうにかして彼女を『欲しい』と思った。もっと傍にいて欲しくなった。毎日その声で褒めてもらいたかった。だから啓五としては、真剣に口説いたつもりだったのに。
< 32 / 185 >

この作品をシェア

pagetop