スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 あの夜の陽芽子の言葉は、本心だったのだと思う。本当にそう思って言ったと気付いているから、また同じ言葉を聞きたいと思ってしまう。自分だけにその目を向け続けて欲しいと願ってしまう。

「たまちゃん、わたし次はムーラン・ルージュがいいな。さくらんぼ無しでいいから~」
「はいはい」

 勝利の美酒を別のカクテルにするため無邪気にオーダーを告げる姿に、つい気が抜けて笑ってしまう。環の後ろにずらりと並ぶリキュールの瓶を見つめて、楽しそうに瞳を輝かせている姿がなんだか無性に愛おしくて。

「ムーラン・ルージュ? なにそれ?」
「えっとね、ブランデーをパイナップルジュースで割って、シャンパンを入れるの」

 陽芽子は甘いお酒が好きみたいだ。いつもワインベースかリキュールベースの甘いお酒ばかり飲んでいる。啓五はどちらかと言えばラムやジン、ウイスキーなどをベースにした強いお酒を好むので、それだけで可愛いと思ってしまう。

「甘そう……」

 ぼそっと呟いたのは酒の話ではない。きっと今キスしたら甘いんだろうな、なんて中学生みたいな妄想が口に出てしまっただけだ。

「えー、甘いかな? 啓五くん、パイナップルきらい?」

 子犬のように小さく首を傾げる陽芽子の仕草に、会話の内容を一瞬だけ見失う。まるで自分の事をきらい? と聞かれているように錯覚して、

「好きだよ」

 と口にしてから、自分でも驚く。

 思ったことをそのまま口にして、勢いで愛の告白をしてしまった気がしてハッと我に返る。

 けれど陽芽子のご機嫌は相変わらずで『じゃあ後で飲んでみて』と微笑むだけだ。

「後で? いま一口飲ませて貰えればそれでいいけど」
「え、やだ。自分で頼んで」

 下心を隠すように悪戯めいた言い方をすると、陽芽子はぷいっとそっぽを向いてしまった。うっすらと淡く彩られたミルクティー色の爪先が、啓五の視線からカクテルグラスを遠ざけようとバーカウンターの上で動く。
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