スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

うわさの彼女(啓五視点)


「おーい、副社長~」

 急にドアが開いたので何事かと驚く。しかしよく考えれば、ノックもせずに副社長室へ入室してくる人など社内に一人しかいない。

 幼少から呼び慣れているはずの下の名前ではなく、ちゃんと役職で呼んできたのはいい。けど中の様子も確認せずに入って来て、もし来客があったらどうするつもりなのかと呆れてしまう。

「啓五、ライター持ってねぇ?」

 叔父である怜四が、ガタイのいい身体から右手を挙げて問いかけてくる。直前まで『副社長』と呼んでいたのに、あっさり下の名前に呼び変えて。

 手にしていた書類をデスクの上に放り投げて、はぁ、と重い息を吐く。組織的に言えば啓五の唯一の上司である『社長』のお気楽な言動に、集中力を乱されたから。

「持ってるわけないだろ。俺、煙草吸わないって」
「吉本は? アイツなら持ってるだろ?」
「確認して参りますので、少々お待ちください」

 傍にいた秘書の鳴海が、啓五の傍を離れて頭を下げる。そのまま部屋続きになっている秘書執務室へと消えた背中を見て、啓五はそっと感心した。

 啓五のサポート役として配属された吉本と鳴海は、実に優秀な秘書である。啓五の思惑に先回りすることはあれど、遅れをとることはほとんどない。

 最初は秘書なんて二人も必要ないと思っていたが、実際に動き出してみればありがたいことこの上ない。今も啓五が処理しなければならない書類は鳴海が準備し、最終チェックは隣の部屋で吉本が行っている。秘書一人で準備と確認を行う場合と比較すれば、速さは倍以上違うし、三人が携わることでミスも確実に潰していける。

 これなら今日も早く終われる。
 と思った矢先に怜四の来訪。
 ため息を吐くしかない。
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