スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

(結婚したいんだろ? ……俺なら、陽芽子と結婚できる)

 もし頷いてくれるなら、今すぐ結婚してもいいとさえ思っている。そのぐらい惹かれている。いつの間にか陽芽子のことばかり考えてしまう。

 結婚なんて今までは全く興味がなかったし、自分の目標を達成するまでは恋愛すら適当でいいと思っていた。

 でも今は焦っている。のんびりと結婚相手を探し始めた陽芽子よりも、結婚なんて眼中になかった自分の方がよほど焦っている自覚さえある。

 取られたくない。他の人の傍で笑う姿など見たくない。上司への想いを諦めた反動で、他の誰かと急に結婚してしまうかもしれない今の状況を黙って見ているつもりはない。そう、強く思うのに。
 
「いや……なんでもない」

 まだ言えない。一度あっさりフラれているから、今度はちゃんと好きになってもらってからじゃなければ踏み込めない。

 別に告白なんて何度してもいいと思うけれど、言えば言うほど安っぽい言葉になって信憑性が薄れる気がする。以前年下と付き合って傷付いた経験がある陽芽子に、若さゆえの遊びだと一度でも思われたら、もう修正が出来ないと分かっている。

 もちろんまったく意識されていないわけではないと思う。ちゃんと啓五が向けている感情に気が付いていて、それを拒否しないということは完全に『なし』ではないと思う。

 でも本気にされていない。啓五の想いを本気だと思っていない。ゲームには真剣に付き合ってくれるのに、啓五のアプローチは冗談だと言って取り合ってくれない。いちばん本気になって欲しいことだけ、いつもスルリとかわされてしてしまう。

 啓五の陽芽子への想いが本物であることを知ってもらうためには、週に一回のなんの確約もない偶然じゃない……もっと意識してもらえるようなきっかけが欲しいのに。

「酔ったなら早く帰って寝た方がいいよ? 今週、会議多いんでしょ?」

 ほら。あっさりと帰って寝ろなんて言われてしまう。
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