東京血風録4 ダークサイド・イリュージョン
遥である。
摂津に向かって、木刀伊號丸を振り上げていた。
木刀は青黒い炎がまとわりついている。
「摂津!」
袈裟斬りの木刀をひらりと躱す。
「お前のせいで姉さんは!」
振り下ろした刀はそのまま突きに移行して連撃となった。
炎はその都度燃え上がり、それを腕で払った摂津の制服を灼いた。

こんな遥殿を見た事がない!
こんな感情のままで刀を振るい続けたら遥殿はどうなってしまうのか?
闇の深さに恐怖を感じるわい。
伊號丸である。
この能力値はどうなっておる?
これでは、儂が力を貸している時を超えている。
ほぼ、今の状態は遥奥義“血風吹きあれん”を繰り出している時と変わらん!
通常この力ならば、儂が力を貸したらどこまで増幅するものか…。

そんな事を考えていると、遥が。
【伊號丸、力を貸してくれ】

なんと…。
これが、遥殿か…。
その声質。
感情が感じられるだけに、恐ろしい…。
昏い、深い、重い。
地獄の底から響く、地響きのような。
こんな状態で力を貸したら…。

【伊號丸!!」

!!!!!!?
どうする儂!

伊號丸の逡巡と遥の苛立ちが、一瞬の間を生んだ。
その隙に、摂津が遥の首に腕を回していた。力は込めていたが、それは締める類ではなくそっと引き寄せるそれである。
そのまま摂津秋房は王道遥の耳元へ自らの顔を寄せた。
「どうしたのだ、お前は?」
摂津は冷静であった。
「何があったかは知らんが、そんな気の乱れではまともに戦えんだろうが」
遥に届いているのかどうか、遥は身じろぎしなかった。
摂津は耳元で呟く。
「教えといてやる。私は一度死んだ。そう、お前達の仕業でだ。再生はしているが、本当の力は出せないのだ。何故お前にそんな事を打ち明けるのか…」
摂津は一拍間を置いて続けた。
「私は騙されたのだ。あの場で朽ち果ててもよかったのだ。しかし、それでは死にきれなかったのだ!悔し過ぎてな!」
摂津は距離を取った。
遥の眼を正視する。
「真実を突き止めるまで、死ねんのだ。
お前の無念も分かるが、このままやられる訳には如何のだ」
そして、思いもかけない事を口にした。

「お前に協力しよう。お前の果たすべき事の為に協力する。一時休戦だ」












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