お前さえいなければ
エンジは自分のことが好きではなかった。運命の人だと思っていたのはアヤメだけだった。エンジの優しさが全て嘘だったような気がして、アヤメの体が小刻みに震えていく。

「アヤメ、お前の婚約者はまた探す。お前は黙ってエンジくんから身を引け」

反論を許さないと言わんばかりに睨み付けられる。嫁ぐということしかできないアヤメには、発言権利など最初からないのだ。

しかし、あまりにも突然でショックの大きい出来事にアヤメは何も言うことができなかった。ただ、両親やエンジに対する怒りだけが心に積もっていく。

「お姉様、大丈夫ですわ。お姉様にはもっと相応しい人がいるはずですもの」

ミヤコが立ち上がり、アヤメの手を取って見つめてくる。それを見てエンジも立ち上がり、「俺は君に相応しくないから……」と言い始めた。

結局、アヤメは誰からも愛されていなかったのだ。みんなミヤコばかり見る。目の前で微笑むこの女に対し、アヤメは初めてどす黒い感情を抱いた。

プツリと音を立てて、アヤメの中で何かが切れてしまった。
< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop