トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~
「わあ、嬉しい! ありがとう!」

「では、少しお待ちくださいね」

 わたしのはしゃぎっぷりに目を細めながら、彼は給湯室へ向かった。

 彼は恋愛に関して不器用だと自分では言っていたけれど、こうしていつもちゃんと女の子が喜ぶツボを押さえてくれている。一時期はわたしも、「この人って本当に恋愛下手なのか」と疑問に思っていたほど。

 でも彼だって、不器用なりにいくつか恋愛をしてきたのだろう。わたしより八歳も年上で、その八年分はわたしより厚みのある人生経験を積んできていたはずだもの。

「――もしかして桐島さん、わたしの恋心に気づいてるのかな……?」

 会長室にひとりきりのわたしは、コーヒーを淹れてくれていた彼を待つ間に、経営学の本のページをめくりながら独りごちた。

 母と里歩は知っていたけれど、このオフィス内ではわたしが彼――貢に恋をしていることは秘密だった。それこそ、ちょっとオーバーだけれど〝最高機密(トップシークレット)〟といっても過言ではなかったのだ。

 いくら思春期の女の子とはいえ、大財閥のトップが秘書に恋しているなんて、公私混同もいいところ。彼との関係がこじれて、経営面にまで影響が出てしまっては、トップレディの名折れどころか経営者として失格である。
 そのため、二人がキチンと婚約までして、もうこじれる心配がないと確信できるまでは二人の関係を(おおやけ)にするつもりはなかったし、それどころかこの頃はまだ、彼に告白するかどうかすら決めかねている状態だった。

 彼の方がわたしのことをどう思っているかも分からない状態で、わたしの気持ちに気づかれていたとしたら、二人の関係は気まずいことこのうえなかっただろう。
 それでも、ずっと気づいてもらえなかったとしたら、それはそれで悲しい。わたしの初恋は、そういうジレンマの連続だった気がする。

「はぁー……、恋って厄介ね」

 大きくひとつため息をつきながらも、それどころではなかったと思い直し、わたしは再び本のページをめくり始めた。

「恋も大事だけど、今のわたしにはこっちの方が重要よね」

 わたしは幼い頃から、両親に〝帝王学〟ならぬ〝女帝学〟を身につけさせてもらっていた。おかげで英会話もこなせるし、書道では段を持っている。学校の成績は常に上位をキープしていたし、料理もできるし、パソコンの扱いだってお茶の子さいさい。
 でも経営学だけは、実際に自分が(たずさ)わってみないと分からないことだらけだった。経営する会社や財閥の規模によっても違うし、働いている人たちの個性だって現場にいなければ分からない。
 だからわたしは、こうして会長の職務をこなしつつ、その合間に独学で経営について勉強していたのだ。
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