√セッテン
「最近の絵里子、何か思い詰めてるみたいで、心配してたんだ」

山岡は電車の中で、ポツリと口を開いた。

「黒沢君に告白することで、悩んでたのかな……」

「ふーん……でも、事故は自分が気をつけてても、どうにかできることじゃないだろ、こういう言い方冷たいかもしれないけど、しょうがない」

「うん、泣いたり、後悔したりしても、絵里子帰ってくるわけじゃないもんね、それは……分ってるつもりだよ」

車内アナウンスが、山岸絵里子の地元の駅名を告げる。

俺の通う二条西高校の最寄から2駅隣

白砂海岸がほど近い住宅地だった。

「もっとたくさん相談にのってあげればよかったね」

長谷川沙織が言って涙を滲ませた。

長谷川沙織は、クラスでも人気のある女子で、どこかのファッション誌の読者モデルをしていた。

頭も良くて顔もいいというおかしな公式がまかり通っていると、敦子が羨ましそうにしていた。

彼女は河田が目をつけていて、いつもギラギラした視線を投げている。

「山岸、俺に告るのでそんな悩んでたわけ?」

「そ、それだけが原因じゃないと思う。最近すごく不安そうにしてて、昨日の夜なんかほとんど私の声は聞こえてなかったみたいだった」

駅を降りてバスに乗る。

俺はまたぼんやりしながら外の景色を見ていた。

知らない景色を視線で追いかけながら、山岡に即されて途中で下車。

大きなリラの花が咲く家に「山岸」という表札がおりていた。

両親に挨拶をすると、母親の方が何度も頭を下げ、俺たちを部屋の奥へと案内した。

「絵里子。昨日は遅くに電話ありがとう……出れなくて本当にごめん、何か悩んでたんだよね?」

山岡が山岸絵里子と対面をした。

「でもあれが最後なんて、そんなのないよ……」

山岸絵里子のいる部屋は清廉とした空気で満ちていた。

突然の不幸に、この家の回転が追いついていないのだろうか

あちらこちらに幸せの、平穏な日常の香りが残っている。
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