√セッテン
「先生、山岡のは?会う約束があるんで渡してきます」

はい、と開いた手を出すと、担任は教卓の中にある封筒を引き出して、山岡のテストを入れて封をする。

「炉端に捨てたり、忘れたりするなよ」

「センセー、そんなことするの、河田君だけだと思いますー」

誰かが声を上げると、どっと笑いが広がる。

河田君、バイクで事故って入院でしょ?

とささやきが聞こえた。


自分のテストをパラパラとめくる。

全教科合計を割って平均を出すと、オーラルコミュニケーションがやはり足を引いていた。

担任の長い話がはじまる。

外はこれでもかというくらいに青空で、遠く海の方に、入道雲が並んでいる。

「……難関大学へのチャレンジ精神を」

担任の言葉が右から左へと突き抜けていく。

あくびを1つ打つと、斜め前のクラスメイトに感染した。

やたらぬくい空気と、カーテン越しの柔らかな日差しが心地良い。

「数学、特に設問8の2。あれはW大の入試でも応用として出てる。今勉強したことが来年にも生かされる、ここだけすり合わせをしよう」

担任が教卓から離れて黒板に問題を書き写す。

「黒沢潤」

差し出された白いチョーク

俺はぼんやりと担任を見た。

やれ、ということだろうか。

担任は黒板からクラスに視線を返して、この問題の回答率が5%以下だったと言いながら、また面倒な話を続けた。


白いチョークをかるく握って、黒板にあてる。

空っぽの頭の中から、数学の公式を記録したノートを引き出す。


ノートを開くと、パッと花が咲いたように、白い紙面と、俺の記録が広がった。

開いた手でトントン、と指でリズムを取る。

黒板との摩擦ですり減る白いチョークの摩擦度を頭の端で思いつつ

ギリシア文字と数字を描く。
< 358 / 377 >

この作品をシェア

pagetop