√セッテン
xとyの交差するグラフを引いて

iとⅱの定理を解説する。

「楽しい」

式の途中で、一言呟くと、担任は視界の端っこで少しだけ微笑んだ。

そうだこれが、俺の日常だ。

「以上より、f(t)=t(0=1)なので、y=f(t)のグラフは」

黒板の端に、xとyの交わるグラフ線を引く。

山の絵でも描くようにして、おおざっぱな線を引き、補助線と式を書き込む。

「ここは、1とtの交わる点」

カツ、と骨が折れるような音を立てて、チョークが折れた。


「そう、問題はこのグラフまで、どうやって辿り着くかだ」

ガン、と担任が黒板を叩く。


「答えを出すことだけ夢中にならず、過程を大切にしろ。
途中まできちんと式を組み立てていれば、部分点を貰うことだってできる。
いいか、試験は時間配分との戦いだ。過程を考えろ」


その言葉は、死の待ち受けを追いかけていた俺に向けて言われた気がした。

「黒沢は常日頃、昼寝ばっかりしてるが、試験2週間前から必ず放課後の図書室で自習と復習をしてる」

え?

「日頃から自分のペースを守ること、それはどんな緊張や不安も乗り越えられる自信に繋がる」

担任のやつ

なんで知ってるんだ?

「来年は戦争だ、今からきちんと自分のペースを作る準備をしろ、詰め込むことより、自分のペースを守ること、これを一番だと思え」

それは、担任からの賛辞だったのだろうか。

視線を黒板からクラスに向けると、クラスが夏の日差しで照らされて白く漂白されて見えた。
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