√セッテン
「潤、蔵持さんのこと、キレイって言ったでしょ」

敦子が突然話を切り出してきた。

ライブビデオを見た時のことだろうか、俺がキョトンとしていると、敦子は構わず続けた。

「ちょっと嫉妬したなぁ、もういない人に嫉妬してもしょうがないけど」

「お前は何でもかんでも嫉妬だな。いつか√の女になるんじゃないか」

「やめてよ。私はそんなに弱くないよ。あんなのと一緒にしないで」

駅前が見えてくる。

夏休みに向けて開放感に溢れた学生がマクドにいっぱい溜まっていた。

「ねぇ、でも、私たち、蔵持さん助けてあげれたよね?」

「さぁ、部分点かもな」

「私が100点上げるよ」

「赤点常習者に貰ってもな」

喜んでよ、と敦子は言った。

「100点ついでに、何があっても、潤が凹んだ時は、私が潤を受け止めてあげるよ」

歩道を進む足が止まる。

振り返ると、敦子も足を止めていた。

「潤がいて幸せなんだって、霧島さんが死んで思った、潤はどんな私でもいつも受け止めてくれるよね」

それは間違いないので、一度頷く。

後ろから走ってきたチャリに急かされるようにして、また歩き出した。

「潤がいてくれることが、すごく贅沢なことだって気が付いた。別に付き合ってなくても、潤がそこにいる、それって当たり前だけど、無くしてからじゃ遅いから、ちゃんと毎日ありがとうって思うことにする」


「敦子」



「何?」



「ありがと」


俺もそうだよ、音にせず唇だけ動かすと

敦子は、大きな目を細めて、笑った。

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