助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
こんな事、自分で言うことではないかもしれない、が。

僕は、女の子からはよく声をかけられる。
会社から表彰もされたから、それなりに有名人だ……という自覚はある。
クライアント先の女性からの食事の誘いは、断るのが大変なほど。
だから……たった1度しか会っていないとは言え……高井綾香にも、顔くらいは覚えてもらえている……とは思っていた。

しかし、そんなことは僕の楽観的な妄想でしかなかったのだと、彼女の表情、仕草、行動から思い知った。
僕ばかり、彼女のことを気にしていた。

「仕事に戻ろう……」

彼女が、自分の部下になるかもしれない。
履歴書を見た時には確かに動揺は、した。
だけど、同時に嬉しくもあった。
これで、心起きなく彼女を誘えると思ったから。

でも、彼女は、そうではなかった……。
僕だけが、気にしていたのが……とても悔しい……。

4階にエレベーターがついた。
扉が開くと、人事部長が立っていた。

「お、加藤くんちょうどよかった。探してたんだ」
「……何でしょう?」

高井綾香を見つけ、すぐに面接に呼んだ人だ。

「ちょっと頼みがあるんだが……聞いてくれるか?それとも今忙しい?」
「そうですね……」

部下の進捗チェック、面談の準備など、明日までに終わらせないといけない仕事は溜まっている。
忙しいと言えば、忙しい。

「もし加藤くんさえ良ければだが……今ちょうど始まった面談、同席してくれないか?」
「何故です?」
「今日担当の子なんだが、新人で面接経験もあまりないんだ。本来なら私が指導でつくはずだったんだが、少し野暮用ができてしまってね……それで……」
「やります」

僕は二つ返事で答えた。

それからすぐ、僕は4階から2階に降りて、面談室の前まで行った。
どうやって中に入ろうか……と、考えあぐねていると、高井綾香の声が聞こえてきた。
僕はじっと耳を澄ませて、それを聞いた。

「私はもっと上を向いて歩ける人を増やしたい。世の中色んな仕事があって、あなたを必要としてるところが他にもあるよって伝えたい。そんな仕事がしたいんです」

時間を見る。
今は志望理由を話すタイミングなのだろう。
自分と全く同じ志望理由を持って、高井綾香が面接に来たのだ……という事に、僕は心から驚いた。
運命って言葉を簡単に使うのは陳腐だと思っていた。
けど……もし本当に運命だと言うのなら……。

この時、僕の頭に悪い考えが湧き上がる。
ああ言う考えが浮かぶ……ということは、彼女にとって、人間は性善説で生きている存在なんだろう。
それつまり、彼女にとって良い人であればあるほど、普通のことであり、空気のようになる……忘れやすい人になりうるということ。

では逆なら……どうだ?


思い出さなくてもいい。
でも、もう忘れさせない。

僕は決意を胸に秘めて、応接室の扉を開けた。

Winner 高井綾香(ただし、本人にはまるで自覚なし)
Fight4へ続く……
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