助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
「……高井さん?」

やばっ……。
声、めっちゃ低いじゃん……。
最近ご無沙汰だったから、久々に聞くと、結構クルものがある。

「あ、加藤さんどもー」

河西君……!!
空気を読んだんだか、読んでないんだか分からない、のんきな口調で返事しないで……!!
後が怖いんだって……!

私は、口にする訳にはいかない心の声をどうにか届けたくて、必死に河西君に向かって念を飛ばした。

「ずいぶん2人で無駄話をしていたようだけど?」
「ははは〜無駄話に聞こえちゃいました?ねえ、高井さん」

虚しく河西君には1ミリも届いていなかった。
お願い、私に話題振らないで……!

「少なくとも、取引先の事についての話には、見えなかったけど?」
「取引先のことは話してませんね〜でも」

河西君はぐいっと私の肩を引き寄せて

「2人が、めっちゃ仕事頑張れる作戦会議してたんですよーねえ、高井さん」

ひっ……!
加藤さんの目が怖い……。

「そうそう!仕事頑張れる作戦会議、ですです!」

決して仕事をサボっていたわけではなく、仕事を頑張るためのお話。
つまり、巡り巡って加藤さんの評価にも繋がる良いことなのだ、と伝わるように、私は必死に河西君に同意した。

「へえ……2人で……ねぇ……」

えっ……なんか余計に声のトーンが下がった……!?
どんどん機嫌が悪〜くなっているのだけは、よく伝わってくる。
でも……何で……!!

「それなら高井さん、さっき送った仕事も今日中に、できるよね」
「えっ……!」

いやこれ、調査して確認して……膨大な作業が必要でしょう……。
せめて3日は欲しい業務だと思うんですけど……!!

私が加藤さんにそう言おうとすると、加藤さんの目が

「やれるもんならやってみな」

と言っていた。ような、気がした。

「……鬼上司!!!!」

と叫びそうになる。
しかし私は、一度ため息をして気持ちを落ち着かせる。

いけないいけない。

加藤さんは、私に仕事の大事なことを教えてくれた、恩人だ。
ルーキー賞だって、結局加藤さんの言う通りにやったからこそ、取れたもの。
以前の私とは、違う。
私は、もう闇雲にムカつく上司に噛み付く残念な部下には……戻らない!

「……承知いたしました」
「だいぶ、返事までに時間がかかったみたいだけど……まあいいや。それから河西君」
「はい」
「分かってると思うけど……僕のチームの仕事だ。他のチームの君が、くれぐれも首を突っ込むなよ」
「はいはいわかりました」

加藤さんはそう言うと、デスクに戻っていき、河西君と私は無言で自席に戻る。
それから……。

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<社内メッセージ>

高井
「くそおおおお鬼上司!!!!!あの澄ました顔にコーヒーぶっかけてやればよかったよおおおおおおおおおおおお」

河西
「よく耐えたな、高井さん。また血を見るかと思って119番押す準備をしてたよ」

高井
「そんなことよりー!あああ!くそー!!せっかくみんなで会えると思ってたのにー!!!!」

河西
「諦めるな。あの研修の日々を思い出せ」

高井
「河西君……!!」

河西
「お前なら1人でもできる」

高井
「はい!!!!?????」

河西
「うそうそ。ほら、一部回せ。こっちでできることはしてやっから」

高井
「河西くん……神……!」

河西
「今度高級ランチ奢りな」

高井
「1000円以内でよろ」

河西
「出世払いで勘弁してやる」

高井
「もう、出世払いでもなんでも良いから、お願い!」


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こうして、河西君に仕事を一部こっそりと引き受けてもらい、どうにか私はタイムリミットギリギリに終わらせることができた。

ざまあ顔で加藤さんに叩きつけてやろうと思ったが、帰りがけに加藤さんがいなかったので、それはとっても残念だった、のだが……。


この時の私は、まだ知らなかった。
あんな場面に遭遇するのなら、この日は大人しく残業していれば良かったのかな……と、後悔する出来事が起こることを。
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