助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
Last Fight 君の犠牲の上での成果なんて、何の意味もない
私は、オフィスのロビーに入ると同時に、キョロキョロ見渡した。
まるで、敵と遭遇しないように警戒する野生動物のように。
そして今、私は見つかりたくない人間がいないことを、しっかりと確認できた。
よし、急いで席に向かおう。
どうせそこで顔を合わせる……というのは分かっている。
だけど、想定外のところで顔を鉢合わせる……というのはどうしても避けたい。
心臓に悪いから。
その時。

「おはよう、高井さん」

ひっ!!
背後から声をかけられてびくっと反応してしまう。

「……どした?」

河西君だった。
心配そうに、私の顔を覗き込んでいる。

「お、おはよう……」
「熱出たって?大丈夫か?何があったんだよ」
「あーうん、大丈夫……」

と言いながら、人が通る気配を感じる度に、つい無意識にキョロキョロしてしまう。

「……どうしたんだ?挙動不審だぞ?」
「そ、そうかな、あはははは」

よし、来てない……!

「あ、そういえば昨日の加藤さんの件だけどさ」

今、その話題は避けたい。
全力で。

「あの後、井上さんから聞いたんだけど……あれ、クライアントとの会合だったんだってさ」
「……へえ……」
「今勢いあるIT企業の社長と秘書が来るって事で……。加藤さんには秘書いないからさ、代わりになる事務の井上さんを連れて行ったんだって」
「へえ……」
「井上さんに、睨まれながら説明受けた」
「に、睨まれ……?」
「恐ろしい誤解をされては困りまよ……だとよ」
「……井上さん、加藤さんと何かあったのか?」
「……さあ」

ワードチョイスに恐ろしいを入れるあたり、何かがあったのかと邪推したくなるものだ。

「あ、そういえばさ」

まだ何かあるの!?

「高井さん休んでる間にうちの部署、プチイベント起きたぞ」
「プチ……イベント?」
「おう。まあ、行けば分かるから」
「う、うん……分かった」

この、プチイベントという、可愛らしい言葉に秘められた大きな動きの事を後で知り

「もっと言葉のチョイス考えて河西君!」

と怒りたくなった。
が、問題はそれではなかった。
そして、このプチイベントがきっかけで前代未聞な事件に巻き込まれることになんて、この時の私はまだ知らなかった。
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