助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
そこから、見ていてくれてたのか。
ちっとも、気づかなかった。
そこまで周りを私が見ていなかったということなのだろう。

「三条さん、泣きながら僕に言ってくれたよ。君が自分のせいで嫌な思いをしてしまうんじゃないかって……」
「それ……は……」
「絶対に、誰にも言うなって言われたことも、相当キツかったって、言ってたよ」

……言葉もございません。

「でもそれは」
「分かってる」
「え?」
「君のことだ。どうせ浅知恵で、自分になら何とかできるんじゃないかって思ったんだろ?」
「浅知恵って……」
「あとは…………今回の件でもう1人影響が出る人がいる。その人の耳にも入れたくはない……と、そんなところか」

もう1人。
加藤さんは、何でもお見通しなのか。

「……もしかして、元木さんとも話をしたんですか?」
「僕を、誰だと思ってるの?」
「……すみません、愚問でした」

加藤さんは、また大きくため息をつく。
でも、そのため息は、大きいけれど、柔らかい。

「事情を聞いた元木さんは、僕に言ってくれたよ。そこを見逃せなかったのは自分の落ち度。会社や……君に、迷惑をかけるくらいなら、喜んで内定取り消しを受け入れるって」
「そんな……」

元木さんが、どんな願いをかけてこの案件と向き合っていたかを知っているから。
今この時、彼がどんな思いをしているのか……考えると切なくなる。

「それからすぐ、僕の方で長谷部さんにメールで連絡を入れてから電車に乗り込んだ。長谷部さんは仕事ができる人だし、僕は彼から信頼を得ているからね。事がとんとん拍子で進んだというわけだ」
「…………でも…………」

三条ちゃんに、あんなことはさせられないけれど。
私が我慢すれば……やっぱり丸く納めることができたんじゃないだろうか。
全ては、私の弱さと計画力のなさが招いただけなんじゃないか……。

「あのさ、僕……君が今何考えてるか分かるんだけど」
「え」
「どうせ、自分さえ我慢すれば済んだはずなのにとか、思ってるんでしょう」
「どうして……!?」
「ねえ、君ってさ……こう言う時……特に、底抜けのバカだよね」
「ばっ、バカって……!」

と、反撃しようとして、気づいてしまった。
加藤さんは、泣きそうな顔をしていたのだ。
まるで、私の痛みを、自分の痛みだとでも言いたげな顔をしていた。

「もう……2度と、こんな真似しないで」

そう言いながら、加藤さんは私を彼の胸に引き寄せた。
最近、色んな人の肌に触れる機会が多かったけれど……。
この温かさが自分の中でしっくりきてしまう。
加藤さんは、私に言い聞かせるように、私の頭を撫でながら、より強く抱き寄せてくる。

「君の犠牲の上での成果なんて、何の意味もないんだから……」
「申し訳ございませんでした……」

加藤さんの言葉が、嘘のように私の固まりきった心を徐々に溶かしていく。
涙が、とめどなく出てくる。

「怖かった……」
「うん……」
「気持ち悪かった……」
「うん……」
「加藤さん…………」
「何…………?」

私は、初めて私から、加藤さんにしがみつくように抱きついた。
加藤さんは、私の体をより強く抱きしめ返してくれる。

この人の、匂いが好きだ。声が好きだ。体温が好きだ。
今私の体は、この人と触れ合っていることを心から喜んでいる。
触れられるのは、この人じゃないとダメなんだ、と私の心に訴えかけてくる。

それから。
どちらから始めたのかは分からないが、私たちはその場で生まれたままの姿になり、互いを貪り尽くしていた。
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