好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「本日の来客は以上です。この後社長との打ち合わせがあります」
「ああ」

夕方6時。
何とか定時前に一日のスケジュールを終わらせた。
もちろんこの後には打ち合わせや事務処理があってすぐに帰れるわけではないが、気の張る仕事は終えられた。

「お茶を入れましょうか?」

一息つきたい俺の気持ちを汲み取ってくれる礼。
しかし、

「お茶なら誰かに頼むから、もう帰っていいぞ」

この春、礼の一人息子である大地は小学3年生になった。
最近では一人で留守番もできるようになったと聞くが、母親がそばにいたに越したことはない。
礼だって、早く帰りたいに決まっている。

「最近残業が続いているじゃないか、今日は早く帰ってやれよ」

十代で妊娠した礼。
当時友人として付き合っていた俺も随分驚いた。
もちろん、礼自身も迷ったはずだ。
そして、悩んだ末にシングルマザーとなることを決めた。
それからすぐ母さんが家に礼を連れてきて、大地の出産から1才の誕生日までを我が家で過ごすことになった。
世話好きの母さんのことだからその行動を不思議には思わなかったが、礼のおなかが大きくなり、大地が生まれ、一人で歩くようになるのを目の当たりにして不思議な気分になったのを覚えている。

「お茶を入れてまいります」

帰れと言っているのに、礼は専務室を出て行ってしまった。
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