好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「ん、これは?」

コーヒーとともに出された小さな小皿。
そこには一口サイズの洋菓子が盛られている。

「朝食がとれていないと伺いましたので、よかったら少しでもおなかに入れてください」

そういうことか。
きっと母さんが礼に連絡したんだろう。

萌夏とけんかをしたせいで母さんともあまり会話をしないまま家を出た。
色々と気遣ってくれる母さんに今朝は酷いことを言ってしまって、謝りたい気持ちもありながら何も言えなかった。
本当に俺は何をしているんだ。

「お昼は取引先と会食の予定になっていますが、大丈夫ですか?」
あまり食欲のない俺を礼が気遣ってくれる。

「大丈夫だ」
どんなにつらくても仕事はこなす。

人から見れば恵まれた環境にいるんだ、少しくらい無理をしなければ罰が当たる。
金にもやりがいのある仕事にも不自由しない家に生まれたからには背負っていくものがあって、その責任だけは何としても果たすんだ。

「いつもの料亭を予定していますので、さっぱり目のメニューをリクエストしておきますね」
さすが礼、付き合いが長い分俺のことがよく分かっている。

「悪いな、助かる」

正直なところ今食べたいのは萌夏の作るみそ汁。
卵をポトンと落として半熟になったところを炊きたてのご飯とともに食べたい。
って、無理だよな。今朝喧嘩をしたばかりだものな。
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