好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「ねえ、礼。大丈夫?」
「大丈夫、じゃない」

悪いのは大地じゃないのに。
大地だって泣きたい気持ちかもしれないのに。
相手のお母さんの剣幕に負けて、私は母として何も言えなかった。

「それで、大地は?」
「それが・・・いないの」
「はあ?」
呆れたような空の声。

急いで会社から帰ってきたときには大地はマンションにいた。
元気なくうつむきながら、部屋の中でサッカーボールを蹴っていた。
きっと大地も傷ついていて、持って行き場のない思いをボールにぶつけているんだろうと思ったけれど、さすがに室内のサッカーは危ないしやかましい。

「ねえ、イライラするのもわかるけれど、ボールを家の中で蹴ると危ないでしょう」
できるだけ声を落として優しく言ったつもり。
それに対して大地は、
「俺の気持ちなんかわからないくせに」
小さな声で吐き捨てるように言った。

それからは口げんかのようになってしまい、口論はエスカレートしていき、
「お母さんなんて大嫌いだ」
そう叫んで、大地は家を飛び出した。

もちろん、私も辺りを探した。
公園も見たし、空の部屋の前にも行った。
でも大地は見つからない。
二時間以上外を見て回り、私は空に電話を入れた。
もしかしたら大地の居場所に心当たりがあるのかもしれないと、かすかな期待を抱いていた。
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