好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「えらいと思うよ。まだ若いのに、一人で働いて子供を育てて」
「やめてください。みんなやっていることです」

私は何も特別なことはしていない。
結婚できない相手との間にできた子を産むと決心したのは私自身。
「このまま平石の家にいてもいいのよ」と言ってもらったのに、一人で育てると決めたのも私。
それに、大地との暮らしは幸せだった。
仕事も育児も忙しくてゆっくりと大地に向き合ってやれなかったのかもしれないけれど、日々成長する大地を見るのがうれしかったし、仕事も楽しかった。

「川田さんはいいお母さんだな」
「そんなことありません」

いいお母さんはもっと子供を守ってやれる人。
私は・・・

「空はわがままな奴だから」
「えっ」
突然話の矛先が変わり驚いて顔を上げた。

まっすぐに私を見ている社長。
普段のおちゃらけた笑顔も仕事の時に見せる厳しい表情もそこにはない。

「言い出したら聞かないだろ?」
困った奴だと、照れ笑いを浮かべている。

「社長に似ています」
失礼を承知で口にした。

信念を曲げない強情さも、いつのまにか周りを巻き込んでしまう才能も社長譲りだと思う。

「やっぱり似てるか?」
「ええ」
本当に親子だと思う。

「まあ、子供の性格は環境だってことだな」

ボソリとささやかれた言葉に、私は返事ができない。
それは、空の話であると同時に大地の話でもあるから。
社長の言葉にそんな含みを感じてしまった。
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