好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「川田さん」
「はい」

「私は空の父親のつもりだ。あいつが何をしでかしても、親として責任をとるつもりでいる。父親と呼ばせずに育ててしまったことに後悔がないと言えば嘘になるが、私も妻も信念があってそういう生き方を選択した。それが間違っていたとは思わない」

まるで仕事中のような強い目をした社長。
私も姿勢を正して社長に向き直った。

「私の両親がそうだったように、空がどんな生き方をし誰とともに生きるのかを指図するつもりはない。間違った道を選ぼうとすれば文句ぐらいは言うかもしれないが、川田さんが相手なら文句もない。ただし、君自身がきちんと考えて、一生空とともに生きると思えるのならだ。私は賢介同様君のことを娘のように思っているからな。君との出会いは空よりも古いだろう?」
「そうですね」

十代で遥と知り合った頃から平石のお家に出入りしていて、何度か社長とも会っていた。
いつも面白いことを言って笑わせてくださる楽しいおじさまくらいにしか思っていなかったけれど。

「あの頃はかわいいお嬢さんとしか思わなかったが、素敵な女性になったな」
「そんな、もうおばさんです」
「そうか?私にとっては小娘だがな」
「社長」

楽しそうに笑う社長は、一生のことだからちゃんと考えろと言っているんだろう。
どんな選択をしようと反対はしないけれど、自分の選択には責任を持てという意味だと理解した。

正直、少し重たい。
空のことが嫌いなわけではないけれど、大きな可能性のある彼の将来を狭くしてしまうようで素直になれない。
自分の生活と、大地の成長と、その上空のことまで今の私には抱える自信がない。

ブブブ。
あ、着信。

ん?
「平石のおばさまです」

意外な人からの電話に私はそのまま通話ボタンを押した。
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