好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
病院最上階の特別フロア。
このフロア全体が1つの個室となっていて、ここにいる限り外部の人間と顔を合わせる事は無い。
子供の頃俺も何度かここに入院した。その頃は贅沢だなんてことよりも周りに子供たちがいない寂しさが勝っていつも母さんにわがままを言っていたっけ。

「ここから先は萌夏さんお1人で」
SPに言われ俺は足を止めた。



すぐ近くの応接室に案内され腰を下ろしたものの、やはり萌夏のことが気になる。
そして、こんな時についてきてしまった自分の行動を少しだけ後悔した。

萌夏を黙って連れ去った桜の宮家のやり方に不満がないと言えば嘘になる。
あまりにも横暴ではた迷惑な行動だし、本気で仕返しをしてやろうかと考えたこともある。
でも、萌夏と話をしていて気持ちが変わった。

無理やり犯罪のように連れてこられたのに、萌夏はとても楽しそうに話をする。
おじいさまとあんなことをした。おばあさまとこんな話をした。
そう言っている萌夏の声は電話の向こうからでも幸せそうで、時には嫉妬してしまうくらいだ。

萌夏も俺も、お互いを思う気持ちに嘘はない。
ずっとそばにいたいと思う気持ちも同じだと思う。
それでも、今の萌夏にとって唯一の肉親となった桜の宮家は特別な存在なのだろう。

トントン。
「失礼いたします」

ドアが開き、先ほどまで一緒だったSPの山本さんが入ってきた。
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