好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「萌夏さん、お待ちしていました。・・・あっ」
迎えに出ていた副院長が、俺の顔を見て固まった。

副院長の専門は小児科で、子供の頃病気がちだった俺の主治医。
ここ10年ほどは診察を受けていないが、生まれてから中学に入るくらいまではずっとお世話になっていた恩人だ。

「先生、お久しぶりです」
俺はペコリと頭を下げる。

「本当に久しぶり、大きくなったねえ。それに元気そうだ」
「はい、おかげさまで」

本当に、先生がいなかったら今俺はここにいないだろう。
わずか1000クラムほどの未熟児で生まれた俺の命を救ってくれたのが先生だった。
そして、俺を生んだ母の最後を看取ってくれたのもこの病院。
ここは俺にとっての原点だ。

「あんなに小さかったのに」
副院長が感慨深げに俺を見ている。

きっと子供の頃の俺を思い出しているんだろう。
なんだかこそばゆい。

「萌夏さん急ぎましょう」
立ち止まってしまった俺たちに、背後から声がかかった。

「すまない、行こう」

思わず今の状況を忘れそうになっていた。
俺は萌夏の手を取り早足で病院の中へと向かった。
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