好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「僕は、人生の日向も日蔭もどちらも歩いてきたつもりです。幸せだったのかと聞かれれば一言では答えられませんし、清く正しく生きてきたわけでもありません」

真っすぐに俺の目を見る創士さんはどこか気迫を感じさせる。

「酒や借金に溺れ自分を見失った過去はどんなにあがいても消えません。麗にも酷いことをしたと思っています」
「それは違います。麗はあなたを心から愛していたんです」

病床で病魔に蝕まれながら、麗はおなかの中の遥に話しかけていた。
「パパみたいな優しい人になってね」「パパみたいなかっこいい人になってね」
そう言っているのを俺は知っていた。

「僕も麗を愛していました」
少しだけ創士さんの声が震えた。



桜ノ宮のおばあさまが亡くなった日、俺は遥から創士さんに会ったと聞かされた。

「俺に似て性格の悪そうな人だった」
と笑った遥を
「そんなことを言うものじゃないっ」
と久しぶりに𠮟りつけた。

遥は俺の前で泣いた。

いつもは思いを胸に秘めて多くを語らない遥が、随分長い時間泣いて愚痴っていた。
俺は黙って遥の言葉を聞いた。

泣くだけ泣いて、いつもの遥に戻った。
それっきり創士さんのことを口にすることはなかった。
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