好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「賢介さん、改めてお礼申し上げます。麗が命と引き換えにして産み落とした命を大切に育てていただきありがとうございました」
一旦立ち上がり深々と頭を垂れた創士さん。

「やめてください」
俺も立ち上がって創士さんを止めた。

「どうしてもちゃんとお礼が言いたくて今日はここに来たんです。それに」
「それに?」
創士さんの言葉が止まって、俺も聞き返した。

「萌夏ちゃんと遥くんの今後について話をしたい」
そう言った創士さんは、桜の宮家当主の威厳ある顔に戻っていた。

そういえば遥も言っていた。
萌夏ちゃんを創士さんの養女として桜ノ宮家から嫁がせることを考えているらしいと。
そんなこと簡単にできるはずがないと笑ったが、本当だったんだな。

「麗との出会いが運命だったように、地獄をさまよっていた私を救ってくれたのは亡くなった妻と桜ノ宮の父母でした。ですからこそ、萌夏ちゃんを桜ノ宮の人間として嫁に出してあげたいんです」
「創士さん」

世間から必要以上に注目されることのないように、萌夏ちゃんがおもしろおかしくとりあげられることがないように、それでいてスムーズに養子縁組が整うように。創士さんはいくつもの根回しをして、すでに準備をしていた。
願うのは遥と萌夏ちゃんの幸せと、先代当主大全さんの幸せ。
そのためには桜の宮家の養女に迎えるのが一番いいと創士さんは話した。

「賢介さん、協力していただけますか?」
「ええ、もちろん」

創士さんはたまたま宮家に婿に入ったただのぼんくらじゃない。
この時になって、俺は初めて創士さんの本性を見た気がした。
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