好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
子供の頃に両親と別れ身寄りのいない私は、唯一の家族である大地を大切に育ててきた。
父親がいなくて寂しい思いをさせたかもしれないけれど、2人分の愛情を注いできたつもりだし、血はつながっていなくても、平石のおじさまとおばさまは大地のことを孫のようにかわいがってくださっている。
親の愛情を受けた記憶のない私からすれば、大地は幸せ者だと思う。

「もう、何考えているのよ」
自宅へ向かう電車の中でつい愚痴が出てしまった。

そういえば、最近大地の態度に気になる点があった。
食事や服や休日の予定など、今までだったら「それがいい」「それは嫌」とはっきりと言ってくれたのに、何も言わず明らかに不満そうな顔をすることが増えた。
「ごめん、嫌だった?」と聞いても帰ってくる返事は「別に」だけ。
「別にじゃわからないでしょ?」と言うと、プイと自分の部屋に消えてしまう。
そんなことが何度かあったが、ママ友に聞くと「早めの反抗期ね。放っておくのが一番よ」と言われ私もしつこく言わないようにしていた。

ああそうだ。
先生からメールが来ているはずだと思い出し、携帯を確認する。

えっ。
そこには今日が参観日だったと書いてある。
もしかして大地が学校を休んだ理由はこれかもしれない。
大地は私が参観日に来るのが嫌だったのか、最近忙しくしている私に気を使ったのか、どちらにしても私のせいだ。

悔しい。
絶対に寂しい思いも肩身の狭い思いもさせないってそう思って必死に育ててきたのに。
これじゃあ何のために8年頑張ったんだかわからない。

電車に揺られながら、鼻の奥がツンとする感覚と戦った。
泣かない、絶対に泣かない。8年前大地を生むときにそう決心したんだから、頑張らないと。
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