好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「お茶を入れました」
珍しく日本茶を入れてきた礼さん。

「ありがとう」

「課長も、どうぞ」
これから打ち合わせをすると読んだのか、雪丸さんの分のお茶も入れたようだ。

「ありがとう。え、お茶?」
普段ならコーヒーが出るタイミングだけに、雪丸さんは不思議そうにお茶を見ている。

「コーヒーは朝食の時に2杯も飲んだから、日本茶にしてくれたんですよ」
「ちょっと、」
俺が説明するのを、礼さんが真っ赤な顔で止めに入った。

「何で?事実だろう」
俺を睨みつける礼さんに素知らぬ顔で言ってみる。

こんな言い方をすれば誤解を生む。そんなことはわかっている。
わかったうえで、俺は雪丸さんに伝えたかった。
10代の頃から長い付き合いのある雪丸さんと礼さんの関係に、俺の入る隙は無いのかもしれない。
それでも、俺も本気なんだと言っておきたかった。

「わかりましたから、仕事の話をしてもいいですか?」
少しだけ口元を緩めながら、俺と礼さんを見る雪丸さん。

「すみません、失礼しました」
礼さんはお茶を置くと部屋を出ようとする。

「待って、礼さん。携帯は?」
俺は礼さんを呼び止めた。

「えっと、ロッカーの中に・・・」
「持ってきて」
「はあ?」
「いいから持ってきて」
「あの、おっしゃっている意味が」
「いいから持って来いよ」

ムッと俺を睨んだ後、礼さんは不満そうに部屋を出て行った。

「何をお考えですか?」
雪丸さんのあきれ顔。

「自分に素直に生きることにしたんですよ。今のところ失うものはなさそうなんでね」
「なるほど」

何がなるほどなのかはわからないが、これで雪丸さんに宣戦布告したことにはなるだろう。
このチャンスを逃す気はないんだ。
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