好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「遥ッ」
何年かぶりに聞いた母さんの怒鳴り声。

子供の頃から叱るのは父さんの役目で母さんは声を荒げることはなかった。
それでも何年かに一度は叱られることがあった。
そんな時は、いつもは優しい母さんを怒らせてしまったことを後悔して悲しい気持ちになったのを今でも覚えている。



俺の声を聞いた母さんが部屋に入ってきた、その記憶はない。
気が付いたら携帯を取り上げられていた。

「うん。うん。そう。それで、萌夏ちゃんは大丈夫なのね?うん。わかった。でも、電話は必ずつながるようにしておいてちょうだい。そうね、お父さんにも遥にも伝えるわ。はい、じゃあ」
あっさりと電話を終わらせてしまった母さん。

「母さん、俺まだ・・・」
萌夏と話をしたかったのに。

「今のあなたじゃ、冷静に話せないでしょ。時間を置きなさい」
「しかし」
その間に萌夏の何かあったらどうするんだ。

「萌夏ちゃんは無事みたいだし、萌夏ちゃん自身が少し待ってくれって言うんだから待ってあげないさい」
「でも」
「何もするなって言っているわけじゃないわ。その間にあなたはあなたで調べればいいじゃない」
「そんなぁ」

冷静に話せないうちは電話しないでねと念を押し、母さんは部屋を出て行ってしまった。
肝が据わっているというか、度胸があるというか、どうしてこんな時女性の方が潔いんだろうか。
女の人って、怖いわ。
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