好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
ここのところベットの上での生活ばかりだったと聞いたおばあさまが、車いすに乗り居間に出ていらした。
おじいさまもおじさまも不思議そうに、でも嬉しそうにその様子を見ている。

「今日のお夕飯は皐月の好きなお寿司にしましょう。いつものお店にお願いして来てもらうといいわ。ねえあなた」
「そうだな」

いつものお店というのは銀座の超有名すし店で、桜の宮家では家に職人を呼んでお寿司を握ってもらっているらしい。
庶民には想像もつかない生活だわ。

「皐月、あなたが好きだったひまわりの花がまだ咲いているのよ。見に行きましょうか?」
満面の笑顔で今にも部屋を出ていこうとするおばあさま。
「いいえ、まだお茶をいただいていますから。後ほど」
「そうね」

少しだけ記憶が混乱してしまっているおばあさまの前で、私は皐月でいることにした。
おばあさまがお母さんに最後に会ったのが25年前。
長い時間寂しい思いをしていたおばあさまのためならそれでいいと思えた。
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