信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
牧場の朝は早い。
森下牧場では久保田浩介支配人の息子夫婦が
母屋の近くにログハウスを建ててカフェを始めたため、乳牛の数も増やしていた。
早朝5時の搾乳や競走馬への飼い付け(餌やり)からスタッフが動き始める。
久保田の妻真由美は、長年森下家の家政婦をしており、
60になった今でも彩夏の面倒を見るのは自分だと言って譲らない。
今日は、彩夏が札幌市内で行われる動物セラピーのシンポジウムで講演する日だ。
本人より真由美の方が気合が入っている。
「彩夏さん、おはようございます!」
彩夏が二階から階段を降り始めたとたん、大きな声で真由美が朝の挨拶をしてきた。
「おはようございます、真由美さん。」
「今朝はお好きなパンケーキにしましたよ。
さ、しっかり朝ごはん召し上がってくださいませ。」
「嬉しいわ。ありがとう。」
楽なスウェットスーツのままキッチンに降りてきた彩夏を、
真由美は朝食を揃えて待ち構えていた。
コーヒーの良い香りがする。
「真由美さん、気合入ってるわね。」
「勿論です、今日は楽しみにしていたシンポジウムの日ですから!
何て言うやつでしたか、えーと、インターネットで、拝見しますからね。」
「ハイハイ。」
その時、母屋のチャイムが鳴った。
「まだ7時ですよ、誰でしょうね。」
真由美が木製の頑丈な玄関ドアを開けると、そこに男性が立っていた。
「…? どちら様?」
真由美に彼が解るはずもない。彩夏の結婚は知っていたが、相手の顔など見た事がないのだ。
「高畑樹です。彩夏さんにお会いしたい。」