信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
『まさか』
キッチンにいた彩夏にもその声は聞こえた。
樹がこの牧場に来るなんて、考えた事が無かった。
真由美も呆然と立ったままだ。
「さやちゃーん。」
その時、久保田夫妻の孫、美咲の声が玄関の外から聞こえた。
「さやちゃーん、助けて~。猫ちゃんの具合が悪いの~。」
今にも泣きそうな声だ。
樹よりそちらが心配で、彩夏は玄関に向かってしまった。
そこに立つ樹が目に留まった。彼は、朝からステキだった。
雑誌やテレビで見たスーツ姿とは違って牧場に合わせたのか、
普段着の白いシャツとデニムのパンツスタイルだ。
シンプルなだけにスタイルが良く無いと似合わない。
うっかり見とれそうになったが、あえて彼を無視して美咲の側に寄った。
「美咲ちゃん、どうした?」
「この子、おめめが変なんだよ~。」
「あらあら、チョッと見せてね。」
美咲のお気に入りの子猫をそっと受け取ると、目元を確認した。
軽い結膜炎の様だった。
「おめめ痛そうだね~。酷くならない様に、目薬さしてあげる。」
玄関脇にある、簡単な処置室から薬を取ってきて、美咲の前で目薬をさした。
「これで、安心。夜また見てあげるからね。」
「ありがと、さやちゃん。」
「美咲ちゃんも安心して学校に行く準備してね。」
「はーい。」
美咲はご機嫌で、両親が営むカフェの方へ子猫を抱きしめながら帰って行った。
森下家の母屋からさして遠くない位置にログハウスがあり、
そこが、美咲と彼女の両親の住居兼カフェになっている。
都会から訪れる観光客の受けが良く、
競走馬が見られるし乗馬も出来るカフェとして人気が高い。
彩夏は美咲の姿が小さくなるまで玄関ポーチにいたが、
いつまでも彼を無視していられない。
「それで、どんなご用でしょうか?」