信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 退院した樹は、新千歳からまっすぐ森下牧場に来た。
前回と同じ黒のSUVに乗って。
午後便で来たのだろう、夕方前には牧場に着いた。
母屋の横にあるパーキングに車を止めて、重厚な玄関のベルを鳴らした。

「いらっしゃーい。」

 一番に飛び出したのは美咲だった。
樹も小さいレディのお迎えに驚いた顔を見せたが、
「こんにちは、お世話になります。」
と、丁寧に答えていた。

 改めて彩夏は久保田家のメンバーを紹介した。
牧場の支配人を務める浩介、その妻で家政婦の真由美と
浩介達の息子夫婦。孫の美咲はムードメーカーになってくれた。
彩夏も自然に樹を迎える事が出来、ホッとした。

 挨拶や自己紹介が済むと、それぞれ仕事に戻って行った。
美咲も宿題があると、ログハウスに帰って行く。
夕食を皆でとる約束をして、一時解散となったのだ。

 広い玄関ホールに、樹と彩夏二人だけになった。

樹はそっと、彩夏を抱き寄せた。

「ああ、やっと来られた…。」

静に彩夏も腕を樹の背に回した。

「痩せたんじゃない?」
「………。」

無言で、樹は彩夏を抱きしめ続けた。

「どこにも行くな…。」

「ここは、私の家よ、どこにも行かないわ。」
「ああ…。そうだな。」

「あなたこそ、私を置いて行ったじゃない。」
「ごめん…。」

後は、言葉にならなかった。
…優しいキスが繰り返されたから。


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