信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

「きゃあ!ごめんなさいね、彩夏ちゃん、うちの子(ペット)
 近頃いたずらっ子になっちゃって、リモコン触っちゃうのよ。」

慌てて綾音が戻ってきた。
ペットの犬が、テレビのリモコンスイッチを押したらしい。

綾音が急いでテレビに近付くと、樹の顔写真を背景に、
ワイドショーの司会者が解説し始めたところだった。
「あら、高畑さんじゃない。」

 今日発売の週刊誌に掲載された、樹とタレントの熱愛報道だ。
こと細かに取材した内容を放送している。 

いつ、どこで二人が出会ったのか。
どんな交際をしてきたのか。
今回写真が撮られた場所は何処で、二人が何をしていたのか。
ご丁寧に、樹は妻と別居中で離婚間近と言われていた。

『ナニコレ…』

 最後に、お相手とされるタレントのインタビューまで放送された。
レポーターが迫ると、愛らしい彼女は
『私達、愛し合ってますから』
と切なそうに言った。
妊娠しているのでは?とレポーターが迫ると、
『樹さんに聞いて下さい。私からは言えません。』
と、妊娠を匂わせて答えていた。

もう、彩夏の頭には何も入って来なかった。
樹が忙しくしていたのはこんな事だったんだ。

「相変わらず、お盛んねえ高畑さん。モテる人は大変!」
「…そうなんですか…。」

「この前、ホテルで見かけた子かしら。」
「ご存じなんですか?」
「うーん…見たことある様な…女の子の顔って覚えにくいのよねえ…。」

それ以上、樹の話をするのも嫌だった。

「じゃ、綾音さん、私はこれで…。」
「彩夏ちゃん、ホント顔色悪いわよ、気をつけてね。」
「はい、ありがとうございます。」

勢いよくソファーから立ち上がると、クラりと彩夏の身体が傾いた。
「彩夏ちゃん!」

「大丈夫です…チョッと立ち眩みが…。」

「今日、息子がいるのよ、直ぐ呼ぶから待ってて!」
綾音がリビングを飛び出して行くのが見えたが、
彩夏はソファーに蹲ってしまった。身体に力が入らない。

もう、何も考えたくなかった。



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