信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
『ニンシン』
今、長谷川ドクターは妊娠と言った。
「私、妊娠していますか?」
「ええ、おそらく…まだ超音波では確認できませんが、
二か月に入ったばかりかと思いますが。」
嬉しさがこみ上げてくる。涙が出そうなくらい嬉しい。
この所、情緒不安定なのはそのせいだったのか。
彩夏は不順気味だったので、妊娠の事を考えない様にしていたのが悔やまれた。
側で、真由美と綾音が呆然としているのが見える。
「嬉しい…。」
振り絞るようにして、漸く声が出た。
「私の赤ちゃん…やっと来てくれたのね…。」
「彩夏ちゃん、その…その子のお父さん、高畑さんなの?」
恐る恐るといった感じで綾音が聞いてきた。
彩夏は、突然倒れる前の映像を思い出した。
大画面で見たせいか、鮮明に覚えている。
スクープされた密会写真。インタビューに答えるタレント。
解説するキャスター。コメンテーターの興味本位な見解。
放送された通りなら、樹は彩夏と並行してタレントとも付き合っていたらしい。
テレビの中で見た樹は別人の様だった。スーツ姿で、表情も厳しい。
愛らしいタレントとの交際報道があったやり手のビジネスマンそのものだ。
そんな人に、この子は渡さない。
「いいえ、この子は私の子、私一人で育てます。」
そのひと言だけ話すと、彩夏はまた目を閉じてしまった。
極度の緊張と興奮で疲れたのだろう。
その様子を見て、長谷川夫人と久保田真由美は病室を出て行った。