信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
「長谷川様、今日は大変お世話になりました。
彩夏さんの事、助けていただいて、本当にありがとうございます。」
真由美は廊下で深々と頭を下げた。
「久保田さん…長年森下牧場で働いて来たあなたなら、詳しい事情を知ってるでしょ。
許される範囲でいいの、何か事情がありそうだから話してくれない?」
「長谷川様…。」
真由美から話すのはどうかと躊躇いはあったが、
長谷川夫人が病院の売店で購入してきた雑誌の記事を見て、心は決まった。
「わたしが知る範囲だけ、お話しいたします。
主人の方が昔の事は詳しいと思いますので最近の事だけですが…。」
家政婦の真由美が知るのは、この10年、樹と彩夏に何の接点も無かった事と、
今年の6月から何度か森下牧場を樹が訪れ、この夏は病気療養の為に3週間程
彩夏と過ごしたという事実だけだ。
「そんな事があったの…。可哀そうに、彩夏ちゃん…
独りで抱え込んでたのね…。早く気付いてあげてれば…。」
「樹様はとても、誠実な方に見えましたので…。」
週刊誌をしげしげと眺めながら、真由美は残念そうに言った。
この夏の二人がとても幸せそうに見えたから、余計に信じられない記事だった。
「まさかと思うんだけど…彩夏ちゃん、一人で育てるって言ったわよね。」
「はい。彩夏さんは真っ直ぐな方ですから、こんな記事がホントなら
離婚するおつもりじゃあないでしょうか…。」
「やっぱり…。あなたもそう思う?」
「長年お世話しておりますので…そう思います。
私からは何も言えません。彩夏さんの思う通りにさせてあげたい…。」
真由美は今にも泣きだしそうだ。娘のような彩夏が不憫でならない。
「そうね、こんな記事だもの。酷いわよ。
二股掛けられて裏切られるなんて…こんな辛い思いをするくらいなら、
私達が助けてあげなくちゃね。」
「はい。森下牧場のスタッフ全員でお守りいたします。」