信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

「信頼できる方にだけ連絡先をお知らせします。秘密を守って下さる方だけに…。」

「わかりました。牧場でも、久保田の人間だけに伝えます。」
「大学は休職させてもらう事にしました。後は…
 畜産組合の方は金子さんにお願いすれば大丈夫だと思うの。」

「そうですね、金子さんは町役場の職員ですから、組合の仕事は何とかしてくれるでしょう。」
「牧場には、変わりのドクターが必要だけど…。」
「夫が…支配人がちゃんと探しますからご安心ください。」

「彩夏ちゃん、行く当てはあるの?」
彩夏と真由美の話を聞きながら、
綾音は彩夏の気持ちを受け止めてはいたが、心配そうだ。

「大学時代の友人に聞いてみようかと考えている所です。
 中国地方とか、九州とか…あちこちの牧場に友人がいるし。」

「やだ、遠いから、やだわ。」
「綾音さんたら…。」

「そうだ、島にね、別荘を買ってるのよ。そこに住まない?」
「え?島ですか?何処の?」
「老後に主人と住もうかと思って、利尻島に小さな別荘を買ったのよ。」
「利尻島…。」
「障害のあるペット達を引き取るのにもちょうど良いかと思って!」

裕福な長谷川家ならではの発想だ。

「一日一便、新千歳から飛行機も出るし、あそこなら私も安心出来るわ!」

「彩夏さん、私も賛成です。九州とか…遠すぎます。」

二人の説得に負けて、彩夏は綾音の別荘に身を寄せて出産する事になった。
覚悟していたよりも、かなり恵まれた条件だった。

「感謝します。ありがとうございます。」

真由美と綾音に対し、彩夏は素直に頭を下げた。


「今は、赤ちゃんの事だけ考えて下さい。」
「高畑さんの方は、任せてちょうだい。優秀な弁護士を雇うから。」

もはや、彩夏の出番はなさそうだ。二人に全てを任せて、利尻島へ行こう。
そして、元気な赤ちゃんを産むのだ。
もう、悩まない。子供との未来だけを見つめよう。



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