信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
これまでは独りだった。でも…これからは違う。
私にはこの子がいるんだ… まだぺちゃんこのお腹にそっと手を当ててみる。
秘かに息づいている命。何物にも代え難い自分の血の繋がり。
何としても守ってみせる。育ててみせる。
彩夏は、もう誰からも傷つけられたくなかった。
翌日、彩夏の病室に真由美と綾音が連れ立ってやって来た。
「綾音さん、何度もお見舞いいただいて、申し訳ありませんでした。」
彩夏は退院許可を取り、病院着から着換えていた。
「あら、もう退院するの?彩夏ちゃん。慎二が退院出来るって言ったかしら?」
「はい。もう大丈夫です。この通りしっかり立てますから。」
「もう、仕方ないわねえ。」
「長谷川様、彩夏さん頑固なんですよ。」
「酷いわ、真由美さんったら。」
「フフフ、もう大丈夫そうね。」
二人に自分の考えを正直に話して、協力を仰ごうと彩夏は決意した。
「入院している間ゆっくり考えました。お二人に助けていただきたいんです。」
「彩夏ちゃん、私達、あなたの為なら何でもしますよ。」
「ありがとうございます…。」
涙を堪えて、彩夏は二人へ向き合った。
「まず、離婚の話を進めたいと思います。」
もともと、この結婚は政略的なものだった。
原点に立ち返れば、お互いの祖父はすでに亡くなっているし、
森下牧場の借金も返済済みだ。婚姻を継続する理由は無い。
ほんの数ヶ月前には、彩夏の方が離婚届を準備したくらいだ。
「秘書の江本さんにあちら側の窓口をお願いします。私は代理人の弁護士を立てようと思います。」
「それは、私が何とかするわ。」
「ありがとう、綾音さん。」
「ただ、この子の事は知られたくありません。安定期に入るまでは不安だし、
彼にはこの子を取られたくない…。
暫く、樹さんの手が届かない所に、姿を隠そうと思います。」
「………よろしいのですか? 彩夏さん…。」
「真由美さん、ごめんなさいね。もう、独りで生んで育てるって決めたの。」
「妊娠中のお世話はわたしがしたかったんですが…。」
「ごめんなさい。無事に生まれたら、きっと知らせるから…。」
真由美は泣き顔を見せない様にそっと目頭を押さえた。
「きっとですよ。約束ですよ。」