信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 一歳を迎えた頃から、(かける)は歩き始め、最近は目が離せない。
どちらに似たのか、保育園でもやんちゃ坊主として有名になっている。
流石我が子だとやんちゃさえ自慢に思える彩夏は、完全な親バカだ。
過去を後悔し、隠れて涙する辛い日も時にはあるが、
子供の成長が与えてくれる喜びは何にも変え難く嬉しいものだった。


「彩夏ちゃーん。」

聞きなれた華やかな声が、動物病院のドアから聞こえた。
診察の合間だった彩夏が受付から顔を出すと、
夜会巻きが良く似合う、雑種らしい子猫を抱いた綾音が立っていた。

「あら、綾音さん。こんにちは。ご機嫌ですね。」
「私ね、ここの温泉大好きなの。暫くホテルに泊まるから、
 うちの子(ペット)達、また検診お願いするわ。」
「わかりました。えーと、明日の午後、ホテルに伺います。」

スケジュールを確認してから、彩夏は返事をした。カレンダーに書き込む。
子育てと仕事の両方をこなすのは大変だ。
彩夏も時間のやり繰りが上手になってきた。
何より、駆を最優先して、自分の事は後回しだ。

「ありがとう、助かるわ。」
綾音は愛しそうに子猫の頭を撫でていた。

その時、挨拶しながらもう一人、病院内に入ってきた。
「お疲れ様です、彩夏さん。」

ふっくらした頬の上にチョコンと丸い眼鏡を乗せた女性だ。


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