信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 樹と祥は何度か状況を確認し、連絡を取り合った。
結局秋田空港を目指し、そこからチャーターしたセスナで
旭川へ飛ぶルートが最速だと結論を出し、祥が手配した。

 道東は荒れ模様だが、道北なら何とかなりそうだ。
そこからは自動車で森下牧場を目指す事にした。

 風雨の中、樹が何とか森下牧場にたどり着いたのは薄闇の中だった。
これまで何度も鳴らした玄関ベルが、今日はやけに重たい響きに感じる。
玄関を開けてくれたのは牧場支配人の久保田浩介だった。
彼の日焼けした顔にも疲労の色が見える。

「高畑社長…。」
「彩夏は?」

「…申し訳ありません…まだ…」
「いったい何があったんだ?」

 玄関ホールに入ると、奥から真由美や江本が姿を見せた。
真由美は小さい子供を抱いていた。男の子のようだ。
何より樹が驚いたのは、その子が幼い頃の祥にそっくりな事だった。
祥に似ているという事は…自分にも似ているはずだ。

「その子は…。」

樹が声を掛けると同時に、小さな男の子は真由美の腕から飛び降りて
トコトコと樹の足元まで歩いて来た。

「パーパ?」
男の子は、樹の濡れたズボンの裾をキュッと握った。
樹を見上げて、もう一度声に出した。

「パーパ?」

 樹は自分を見上げる愛らしい子に、思わず両腕を差し出した。
男の子は樹の両腕をギュッと、抱いてと言わんばかりに掴んだ。
迷わず樹はその子を自分の胸まで抱き上げた。

嬉しそうに声を出して笑う男の子を、その場の誰もが無言のまま
愛しそうに、あるいは悲し気に見つめていた。

「社長…。」

江本がおずおずと前に出てきた。

「彩夏さんがお産みになった、社長のお子様です。」

今度は、樹が絶句した。
この子を見た瞬間の高揚感。それは血の繋がりを感じたからか。


「彩夏と俺の子…。」



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