信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
「この子の…名前は?」
「駆くんです。彩夏さんが名付けました。」
「駆… いい名だ…。」
「彩夏さんが、社長の写真を見せて…パパって…教えていたから…。」
江本は泣き崩れて、後は言葉にならなかった。
自分の子を抱く喜びがこみ上げてきたが、彩夏の事が心配だ。
駆を抱きしめたまま、久保田に向き合った。
「彩夏に何が起こったんだ…。行方が分からないのか?」
「以前この牧場で出産したカンナの子供が函館におりまして…
その体調が悪いと聞いて、心配した彩夏さんが
昨日から様子を見に函館の厩舎に行っていたんです。
今朝、この豪雨で土砂崩れにあって…道路が塞がって…
通行止めで帰れないと連絡があったのですが…
…その後、連絡がつかないままで…。」
久保田の声は震えていた。言葉で状況を説明するのも辛そうだ。
「どの道を通ったんだ?」
「GPSも途中までしか追えていないんです。」
樹はため息をついた。この二年間の情報が全く無い上にこの事故だ。
いくら社長の肩書を持ち、数多の仕事をこなして来たからと言って
今回ばかりは何から考えればいいのか、全く頭に浮かんでこない。
樹の沈鬱な表情を伺いながら、母屋にいる全員が重苦しさに包まれていた。
彩夏との関係を知る彼らには、何と声を掛ければいいのか分からなかった。